「皮」から「革」ができるまで-鞣す(なめす)とは何か?

革靴には、牛、馬、豚、羊、山羊など様々な動物の皮が使われている。
これらは動物の体から剥いでそのまま使われるわけではない。

皮は「鞣し(なめ)」と呼ばれる過程を経て初めて靴に使われる革となる。
ここでは、鞣しの意味から皮から革ができるまでの過程を詳しく解説していく。
皮や革の特徴を知れば、靴選びにもきっと役立つはずである。

鞣し(なめし)の意味と役割

革靴には動物からとれた皮が原材料となっているが、
これはそのまま使用することはできない。

皮は生ものであるため、そのままだと腐ってしまうからだ。

そのため、腐ったり変質したりしないように加工する作業が必要となる。
これが「鞣(なめ)し」である。

鞣しと呼ばれる作業を経て、皮は革製品として使える状態になるのだ。
そして、鞣す際に使用する薬品や工程の違いによって、革の特徴は変化する。
例えばスエードやヌバックは、鞣し方の違いによって生まれるものである。

鞣しはその良し悪しで革の出来あがりが違ってくる、非常に重要な作業なのだ。

 

鞣し製法の種類

鞣し製法には種類があり、代表的なタンニン鞣しやクロム鞣しが存在する。

ここからは、製法の種類とともに特徴や工程についてお話ししたい。

タンニン鞣し

鞣し製法に使われる天然タンニンとは、植物の樹皮や木部、葉、果実などから抽出した渋のことである。
タンニン鞣しをされてできた革は、茶褐色になり、堅牢で伸びが少なく、可朔性が良い等の特徴がある。
工程には2週間以上の長い時間がかかる。

クロム鞣し

クロム鞣しには、塩基性流酸クロム塩という複雑な化合物が使われる。
この鞣し製法で作られた革の断面は、青色になり、濡れた時の耐熱性が強く、柔軟かつ伸縮性があるという特徴がある。
短期間で作業が完了するため、現代の革製品を作る際の主流である。

コンビ鞣し(混合鞣し)

タンニン鞣しとクロム鞣しを併用したコンビ鞣しは、互いの長所を活かした鞣し製法である。

経年変化による革を楽しみながら、耐久性もあり近年では多くの鞄に見られる製法だ。

合成タンニン鞣し

天然タンニンに他の鞣し剤を組み合わせた鞣し製法である合成タンニン鞣しも製法として確立している。

タンニン鞣しとの出来に違いはあるものの、安価で扱えるという利点から使われることは多い。

鞣しの作業手順~皮から革が作られるまで

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私たちが使用する革製品は一体どのようにして作られているのだろうか。
ここからは革ができるまでの過程を説明しよう。

01.原皮を用意する

原皮は基本的に海外から輸入され、豚皮のみが国内産となっている。
アメリカや、オーストラリアを中心として、ヨーロッパ、東南アジアなどからも輸入される。
輸入された原皮は日本の港へ到着後、手続きを経て倉庫に持ち込まれ、その後各工場へ届けられる。

以下、原皮として使用される皮の種類や特徴についてもまとめておく。

牛皮

靴に利用される皮のうちで、丈夫で美しいことから、
最も多く用いられているのが牛皮である。

この牛皮にはカーフ、キップ、カウ、ステア、ブルの5種類がある。

カーフは、生後6か月以内の乳牛種のオスの皮のことである。
繊維組織が緻密かつ細やかで美しいのが特徴だ。

キップはカーフに次いで、キメ細やかで美しいのが特徴だ。

カウは2年くらいの出産を経験しているメスの成牛の皮である。キメは滑らかで厚くて丈夫だ。

ステアは生後3~6か月の間に去勢したオスの成牛の皮である。
厚手で表面はカーフ、キップ等に比べて粗くなるが、耐久性に優れているのが特徴である。

ブルは生後3年以上のオスの成牛の皮である。牛皮の中では最も厚く丈夫なため、
靴底等に使用される。

馬皮

皮の組織構造は牛皮と似ている。
牛皮に比べて粗く、強靭さに欠けるが、柔軟性があり、表面が滑らかである。
繊維の充実した尻部からは「コードバン」と呼ばれる革が作られる。

豚皮

豚皮は我が国で唯一自給できる皮である。
摩擦に強く、通気性があり、中敷き等に使用される。

羊皮

羊皮は、毛穴が小さくキメ細やかで、
薄くて柔らかいのが特徴である。
手触りが非常に良いため、高級な帽子やコートなどに使用される。

山羊皮

山羊皮は、繊維が緻密で毛穴が綺麗なのが特徴である。
繊維の緻密さは仔牛皮と羊皮の中間くらいだ。

02.水洗い、石灰漬、フレッシングを行う

水洗いによって原皮に付着した汚れを取り除き、
石灰に漬けることで、原皮から毛を除去する。
さらにフレッシングによって皮裏の不要物を取り除く。

03.鞣し

鞣しは、皮を革へと変化させるための最も重要な過程である。
クロム鞣しやタンニン鞣しと呼ばれる方法によって、
鞣し剤を皮へ浸透させ、皮組織を固定、安定化させることで皮に耐久性をもたせる。

04.背割りと水絞り

馬や牛は革が大きいため、作業しやすくするために1頭分の革を背筋に沿って半分に切って分ける。
その後、水分を取り除き、革をしっかりと伸ばす。

05.等級選別

革の表面にキズなどの欠点が多いか少ないかを見て、選別を行う。

06.バンドナイフ

なめし前で皮を分割しなかった場合、ここで分割する。

07.シェービング(裏削り)、再なめし、加脂、染色

革製品の目的や用途に応じて、革を削って厚みの調整を行い、再なめし、染色、加脂といった作業を行う。

08.伸ばし、乾燥

染色した革の水分を取り除き、革を伸ばす。
さらに網や金属板などに革を伸ばしながら貼って乾燥させる。

09.仕上げ

革もみによって革を柔らかくし、機械塗りあるいは手塗り、スプレーによって塗装作業を行う。
革の種類によっては、ペーパーがけによって表面をなめらかにするものもある。
また、艶を出し美しさを強調させるためにアイロンをかけたり、模様をつけるために型を押したりする。

最後に革の色や強さ、柔らかさ等の品質検査を行い、問題がなければ、
梱包して各地へと発送される。

革の仕上げ別の種類と特徴

ここからは、革を仕上げ別に代表的なものを紹介しよう。
同じ動物からできた革であっても、仕上がりによって全く魅力は異なるため、
自分に合う靴に出会うためにもここで革の特徴を学んでおこう。

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本染め革

本染め革は、革の中でも最高級品であり、しっとりとした深みと輝きがあるのが特徴である。
製造の際にはできる限り表面に傷がないものを選び、染料で本染めを行い、美しく仕上げる。

起毛した革

起毛した革にはバックスキン、スウェード、ヌバック、ベロアがある。
これらは感触の良さや革ならではの温かい肌ざわりが特徴だ。

バックスキンは、牡鹿の銀面をサンドペンパーでビロード状に起毛したものである。
スウェードは革の裏面をベルベットのように仕上げる。

また、ヌバックは牛革のぎん面をサンドペーパーで軽くバフし、ビロード状に仕上げる。
ベロアは、成牛の繊維の強さを生かして、裏面を毛足長く起毛して仕上げる。

型押し革

牛革をワニ革風にしたり、豚革をオーストリッチ風にしたりする等、高圧プレスを用いて熱処理で型付けを行い、
加工したものが型押し革である。
従来は品質の悪い革を良い革に見せるために作られていたが、
現在では技術の向上により、本物との区別がつかないまでになっている。

コードバン

コードバンは馬革の尻部の左右の強靭な繊維構造をした部分をタンニン鞣ししたあとに、
内面から「鏡」と呼ばれる部分を削りだし、染色・仕上げして光沢を出したもののことである。

その希少性や加工の難しさ、美しさは「キングオブレザー」と言われるほどである。
耐久性がありながらも柔らかく弾力があり、繊細さも持ち合わせている質感はコードバンならではのものだ。
光沢の美しさと滑らかな手触りを楽しむことができるだろう。

シュリンク革

シュリンク革とは、鞣し中に特殊な薬品によって革を縮ませることで、上品な表面に仕上げた革のことである。
その縮み具合は、元の皮の種類や薬品の違いにより変わってくる。

表面が収縮されているため、柔らかく傷が目立ちにくいのが特徴である。

エナメル革

エナメル革は、塗料仕上げを行った後にウレタン塗料を何度も塗り重ねた革である。
表面が滑らかで艶と光沢があるのが特徴であり、ドレスシューズ等によく使われる。
防水性に優れている一方で、温度変化には弱いというデメリットがある。

エルク

エルクとは、鹿革を使用した革で生産時期が限られており希少性も高い。

また、クロム鞣しをした牛皮を、柔らかく揉んだ後で、シボ(模様)を刻んだ革をエルクに似せた製品として販売していることもある。

まとめ

いかがだったろうか。
皮という上質な素材は、卓越した職人の技により、良い革へと変化するのである。
それぞれの革の質感や耐久性といった特徴を知ることで、靴選びの幅が広がり、楽しいものになるだろう。
ぜひ知識と合わせて実際に見て触れて、それぞれの良さを実感できるようになってもらえれば幸いである。