靴の修理や購入時に・・・知っておくと役に立つ現代靴の5大製法
私たちは普段から当たり前のように靴を履いて日常生活を送っている。
靴には多くの種類があるが、どのようにして作られているのか、考えてみたことはあるだろうか?
靴は甲革(アッパー)と呼ばれる靴の底以外の上の部分と、ソールと呼ばれる中底(インソール)や本底(アウトソール)等、
足を支える部分から構成されている。
これらを構成する方法を靴の製法と呼び、ハンドソーン・ウェルト製法やマッケイ製法など様々なものがある。
製法によってはアウトソールが修理可能であり、穴が開いても張り替えることで寿命を延ばすことができる。
安い靴や防水性の高い靴を探したりするときにも製法の知識があると早く目当てのものを見つけることができる。
靴の製法は職人だけが知っていればいいというものではない。
今回は、製法を知っていると役に立つ場面を、製法と併せてご紹介しよう。
靴の製法を知っているとこんなときに役に立つ
普段なんとなく靴を買ったり使ったりしていないだろうか。
靴屋に並んでいる靴には様々な種類があるが、全てが同じように作られているわけではない。
製法によって構造、耐久性、履き心地等、様々な点に違いが生じる。
それでは、靴の製法を知っていると一体どんなときに役に立つのだろうか。
靴が壊れて修理に出すとき
もし自分の靴が壊れてしまった場合、その靴がどのように作られたのかを知っていれば、
修理屋に持っていく際、「ここが壊れているのでこうして欲しい」と詳しく伝えることができる。
難易度が高い技術で作られた靴の場合、全ての修理屋が完璧に対応できるわけではない。
靴の状態について曖昧な知識しか無い状態で修理屋に行くと、
修理後に想像と違うものになってしまうかもしれない。
そこで、事前にどんな製法で作られたのかを知っていれば、
インターネット等で修理可能な店を調べることができるのだ。
靴が壊れて自分で応急処置をするとき
出先で靴底がはがれたことに気付いたが、近くに靴修理屋がなく、
靴をそのまま履き続けなければならない、というときがあるかもしれない。
製法によっては靴底がはがれやすいことがある。
修理屋に行く時間がない場合、接着剤を用いて一時的に補修を行わなければならない。
靴底がどのように接着されているのか、はがれやすいのかはがれにくいのかを事前に知っておこう。
100円ショップなどで靴用の補修接着剤が売られているところもあるので、緊急時には探してみると良いだろう。
応急処置で状態を維持できる期間は限られているので、
なるべく早く靴修理屋に持っていくことをおすすめする。
靴を購入するとき
靴を買うときには「とにかく値段の安い靴を買いたい」「長い間使うことのできる靴が欲しい」などそれぞれ求めるものが違うだろう。
足を入れたときの感覚や値段、使用に適した場面は製法によって異なる。
事前に製法についての知識があれば、靴を購入する際、
自分はどんな靴が欲しいのかを踏まえて選ぶことができ、店員への相談も可能となる。
例えば、グッドイヤー・ウェルト製法の靴は長い間履き続けることができるが値段は高い。
それに対してマッケイ製法の靴はリーズナブルだが、耐久性は他の製法には劣る。
このように製法によってメリット・デメリットが異なるので、靴を購入する際には注意していただきたい。
靴を使用するとき
靴の製法の中には、通気性の高い靴や防水性の高い靴を生み出せるものがある。
自分の靴がどの製法で作られたかを知れば、その日の気候や出かける場所に適した履く靴を選ぶことができる。
例えば、マッケイ製法の靴は通気性は良いが、防水性は低い。
これを知っていれば、暑い日に履き、雨の日には履くのを控えることができる。
それぞれの製法の特徴を知ることで状況に応じた使い分けができるのだ。
靴のケアを行うとき
ただなんとなく靴を履いているのと、靴の作りを知った上で手入れを行いながら靴を履くのでは大きな違いが生じる。
マッケイ製法の靴はグッドイヤー・ウェルト製法と比べると寿命は短いが、
普段からしっかり手入れを行えば、寿命を延ばすことが可能である。
靴を長く履きたいのであれば、靴に応じた手入れを心がけよう。
靴はどのようにして作られているのかを知る
靴の製法は大まかに分けて3種類がある。
それぞれコストやできあがる靴の特徴が異なるのでここで覚えておこう。
糸で縫い付ける<ウェルト製法>
この製法においては靴本体とアウトソールを直接繋げることはない。
ウェルトと呼ばれる細い革の部分をアッパー、インソール、アウトソールの仲介として靴を作る。
アウトソールが直接アッパーと繋がっていないため、アウトソールの交換を容易に行うことができる。
そのため、交換を繰り返せば長い期間、靴を使用することが可能である。
後述する現代の5大製法は全て、これに含まれる。
糊で貼り付ける<セメント製法>
この製法においてはアウトソールを貼り付ける場合、糸を使わずに接着剤を使う。
機械による大量生産に向いており、コストも抑えることができるため、
お店で購入することのできる廉価な靴は、ほぼセメント製法によって作られている。
安価だが、耐久性が低くソール交換もできないため、注意が必要である。
この製法はラバー製法とも呼ばれている。
ひとまとめに行う<スラッシュ製法>
この製法においては材料を溶かして、靴の外側を写し取った型に流し込んで靴を作る。
足の甲と底の部分が一体化することによって継ぎ目が無くなり、防水性や耐久性が高くなるため、
長靴やブーツなどを作る際に多く用いられる。
非常に効率良く靴を作ることができるため、大量生産に向いた製法である。
これを覚えれば大丈夫-現代における靴の5大製法
上述した3つの製法を踏まえて、現代における代表的な5つの製法を紹介していく。
全て覚えて、これから靴を選ぶ際にはぜひ参考にしていただきたい。
ハンドソーン・ウェルト製法
ハンドソーン・ウェルト製法は、機械によって靴作りが行われる前の代表的な製法である。
19世紀後半にグッドイヤー・ウェルト製法が確立されるまでは、職人が一つ一つの靴を手作業で作っていた。
この製法においては、松脂を擦り込んだ麻糸を使ってインソール、アッパー、ウェルトをすくい縫いによって縫いつける。
その後、シャンクやコルクを詰めたあとに本底を当てて、出し縫いをかける。
すくい縫いを行うために中底が3.5mm~5mmと非常に厚くなっていることから、使い込むほど足に馴染んでいく。
全ての工程が1人の職人の手によって行われるため、コストはかかるが、リペアによるダメージを受けないため、
ソールの張り替えを繰り返せば、長年愛用することが可能だ。
グッドイヤー・ウェルト製法
この製法においては、中底に接着されたモノレール状の凸型リブへ、アッパー、ウェルトをすくい縫いによって縫いつけ、
そのウェルトを出し縫いによってアウトソールと縫い合わせる。
ハンドソーン・ウェルト製法では全て手作業で行われていた工程が、機械による複数人の流れ作業に変わったため、
コストを抑え、製作にかかる時間を短縮することが可能となった。
ハンドソーン・ウェルト製法で作られた靴は確かに素晴らしいものである。
しかし、職人1人の手で作られていることから、靴1足ができあがるまで非常に時間がかかる。
この問題をグッドイヤー・ウェルト製法は解決し、靴市場を拡大することに成功した。
中物(コルク)が厚く詰められているため、履き始めは硬く感じることもあるが、
履けば履くほど持ち主の足の形状に馴染み、履きやすくなる。
ソールを張り替えて大切に扱えば、長年愛用することも可能だ。
ノルヴェジェーゼ製法
この製法ではアッパーと中底をすくい縫いしたあと、折り返したアッパーとミッドソールを出し縫いし、
さらにミッドソールとアウトソールに「出し縫い」をかける。
通常はアッパーを靴の内側に入れてインソールと一緒に縫うが、
この製法においては、折り曲げたアッパーを外に出してインソールと縫い合わせる。
ソールが厚く、履き馴らすまでに時間はかかるが、
デザイン性が高くインパクトのある靴を生み出すことのできる製法である。
ノルウィージャン製法
この製法においては、まずアッパーとインソールを水平方向にすくい縫いし、
その後、ミッドソール・アウトソールとインソールを垂直方向に出し縫いする。
防水のため、アッパーの外側に幅広いウェルトがL字に縫い付けられている。
アッパーとインソール等を直接縫い付ける製法のため、
極寒の地で使用しても難なく履けるほどの防水性と堅牢性を備えた靴を作ることができる。
堅牢に作ることを目的としているため、無骨な見た目の靴が多い。
主に登山靴やスキーブーツなど、アウトドア靴を作る際に用いられる製法である。
デメリットとしては、手の込んだ製法のため値段が高いという点がある。
マッケイ製法
この製法においては、アッパーとインソール、アウトソールを直接貫通させて縫い合わせる。
この縫いつけ方はマッケイ縫いと呼ばれる。
最小限のパーツを使って作るため、スマートな形かつ軽量で、靴下のように足馴染みの良い靴を作ることができる。
デザインの自由度も高くリーズナブルなため、多くの人から人気を得ているが、
耐久性や防水性などの面で他の製法に劣るというデメリットもある。
グッドイヤー・ウェルト製法とは異なり、長く使うことを前提として作られていないため、
ソールの交換は2-3回までが限界である。
まとめ
この記事をご覧になっている方の中には、
今まで靴の製法に興味が無かった、靴の製法を知って何か得があるのかとお思いだった方もいるだろう。
しかし、靴の製法が違えば靴の作りから値段や履き心地、耐久性に至るまで様々なことに違いが生じる。
デザインやサイズだけではなく、そういった部分にも着目して靴を選ぶと、
当たり前のように靴を履いている生活が充実したものになるかもしれない。
そんな長く愛用することのできる靴を選ぶためにも、製法の知識を身につけてこれから靴と接していただきたい。